受章
経済学研究科 神野 直彦 名誉教授 令和7年春 瑞宝中綬章を受章

神野 直彦 名誉教授
神野直彦先生の瑞宝中綬章の受章を心よりお喜び申し上げます。
神野直彦先生はこれまでわが国における財政学、地域経済論の推進者としてゆるぎない視点で学問を発展させ、後進の研究者を指導するとともに、政府関係委員などの活動を通じて現実の経済政策の形成にも大きな役割を果たされました。
神野先生は、財政学、地方財政論の分野で、理論・実証の両面から多大な功績を残されました。財政学の方法論な面では、日本版の「財政社会学」ともいうべき独自の学問体系を切り拓かれました。財政現象を市場と政治や社会という非市場領域との交錯現象と捉えられ、財政学と社会科学の境界線上に成立する固有の社会科学として確立するために財政社会学を提唱し、このアプローチから中央政府、地方政府、社会保障基金を「政府」として捉え、3つの「政府」の財政関係として地方分権や社会保障問題を取り上げられました。
この方法論にもとづいて、財政史、福祉国家論、地方財政論、社会保障論の個別分野において独創的な実証研究を行なっています。まず財政史の分野においては、旧大蔵省所蔵の第一級資料を財政社会学的アプローチから綿密に分析して、第2次大戦期に成立した現代日本の租税構造を解明し、わが国租税制度の歴史的研究に新たな地平を切り開きました。
次に地方財政論では、現代日本の国・地方財政関係を、歴史的視点を縦糸に、国際比較を横糸にして検証し、わが国の特徴が「集権的分散システム」であることを最初に指摘されました。企業と家族を通じた対人サービスが行き詰ると、地方財政を通じた準私的財(福祉、教育、介護)の供給が重要になり、国から地方への税源移譲が不可欠になるという考え方は、日本における地方分権改革に大きな影響を与えました。
さらに社会保障論の分野では、社会保障基金を生産の場において形成される自発的協力の「政府」として位置づけ、年金とは高齢という正当な理由で賃金を喪失したときの賃金代替として給付される現金給付であることを明らかにされました。これにより所得比例年金の根拠が明確になり、わが国における年金制度改革に大きな影響を与えています。 また地域経済論の分野では、工業の衰退による都市荒廃は先進国共通の現象であるが、財政によって人間の生活する「場」としての再生を目指す欧州型の解決法を紹介され、地域再生の方向付けに大きなインパクトを与えました。
以上の理論と歴史観を裏づけとした神野先生の政策提言は、日本の地方財政、とりわけ地方分権改革に大きな影響を及ぼしたほか、さまざまな税制改革にも取り入れられました。